日野市多摩平8丁目のブログ

主に日野市多摩平およびその周辺の歴史や話題を語ります

日野市立南平小学校の「君が代伴奏許否事件」

東京パラリンピックが後半戦に入ってきました。日本勢の結果は思った以上に好調で、メダル授与のときには、国家「君が代」が流れる場面をよく目にします。先日終わった東京オリンピックでも、MISIAが歌った「君が代」が話題になりました。

 

一方で、国家「君が代」には、天皇崇拝の戦前の軍国主義教育を助長したとして、嫌悪感を持つ人がいます。

 

かつての日野市立南平小学校の音楽教諭は、「君が代」を認めぬ思想信条を持っており、勤務先の卒業式で伴奏することを拒否し、校長の職務上の命令に従わなかったことを理由に戒告処分を受けました。そこで、この教諭はこの命令は憲法19条に違反し,処分は違法であるなどとして,上記処分の取消しを求めた訴訟を起こしたのでした。

 

この事案は、「君が代伴奏許否訴訟」として最高裁判決が出たため、憲法を学ぶ者の多くが知るものですが、原告の名前が伏せられていることから、舞台が東京都日野市であることは知る者が少ないかもしれません。

判決は、原告敗訴でした。

判旨の理由は、以下のとおりでした。

  • 君が代」のピアノ伴奏をを拒否することは、歴史観ないし世界観に基づく一つの選択ではあろうが、一般的には、これと不可分に結び付くものということはできず、入学式の国歌斉唱の際にピアノ伴奏を求める職務命令が、直ちにその歴史観ないし世界観それ自体を否定するものと認めることはできないというべきである。
  • 君が代斉唱は、公立小学校における儀式的行事として広く行われ,南平小学校でも従前から入学式等において行われていた国歌斉唱に際しては,音楽専科の教諭にそのピアノ伴奏を命じていた。この伴奏は、特定の思想を持つことを強制したり、あるいは禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく、児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることもできない。
  • 学校教育法の規定によると、入学式等において音楽専科の教諭によるピアノ伴奏で国歌斉唱を行うことは、これらの規定の趣旨にかなうものであり,南平小学校では従来から入学式等において音楽専科の教諭によるピアノ伴奏で「君が代」の斉唱が行われてきたことに照らしても,本件職務命令は,その目的及び内容において不合理であるということはできないというべきである。

 

多数の最高裁裁判官の判断のとおりかと思いますが、唯一藤田宙靖裁判官が反対意見を出していました。その反対理由の骨子は、次のとおりです。

  • 参列者に一種の違和感を与えるかもしれないことは,想定できないではないが,ピアノ伴奏拒否が、思想・良心の直接的な表現であるとして位置付けられるとしたとき、このような「違和感」が,これを制約するのに充分な公共の福祉ないし公共の利益であるといえるか否かにある
  • 入学式におけるピアノ伴奏が,音楽担当の教諭の職務にとって少なくとも付随的な業務であることは否定できないにしても,他者をもって代えることのできない職務の中枢を成すものであるといえるか否かには、なお疑問が残るところであり(付随的な業務であるからこそ、本件の場合テープによる代替が可能であったのではないか)ともいえよう

 

つまり、ピアノを弾ける音楽教諭が演奏しない違和感はあるものの、テープによる代替演奏でも差し支えなかったのではないかというのです。

ここで、オリンピックやパラリンピックで耳にする「君が代」の演奏を聞いて思うのは、国内の一流の演奏家による高音質の録音であれば、生演奏に劣らぬ式典の品質を十分保てるということです。

教師が個人的な思想信条をぶつけることの是非は責められるべきものの、学校側もこの際は生演奏に拘らずテープ演奏に寛容であるべきではなかったかと、五輪のメダル授与シーンを見て改めて思うのでありました。