日野市多摩平8丁目のブログ

主に日野市多摩平およびその周辺の歴史や話題を語ります

日野市ごみ処理施設の道路建設問題について

東京都日野市のごみ処理施設の専用道路の建設が都市計画法などに違反しているという住民訴訟が、5年前に提起された。今年9月9日に、最高裁判所は住民側の訴えを認めて、日野市長に建設費用の全額2億5000万円を賠償する判決が確定した。

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大坪冬彦日野市長は、判決を受け、自らの判断に問題があったことを原告側に謝罪した。そして、原告側も問題の解決に歩み寄りを示したことなどを受けて、10月28日の日野市議会において、全会一致で大坪市長に対する債権放棄案を可決した。大坪市長と、萩原副市長が、この責任を取る形で給料の自主返納を発表したのであった。

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市長の謝罪に加えて、裁判の争点となった建設費用は、国分寺市および小金井市とともに使用するごみ処理施設のための費用であり、公共性や必要性があると認められたこと、また、市長が不正に利益を得るような行為ではないことや、道路の違法性が実際の公園の利用に甚大な影響を及ぼしていないことなどから、全会一致の債権放棄案が認められたのだと察する。その一方で、最高裁判所が下した司法判断を、行政が反故にするということは、司法権の軽視につながり、民主主義の基盤である三権分立を脅かす危険な行為であると言える。そこで、なぜこの道路建設が問題になったのか、また日野市の対応は問題がなかったかなどを改めて整理したく、この原稿を書いた。

1.ごみ処理施設建設計画
ごみ処理施設は「クリーンセンター」と称する、多摩川と浅川を挟む位置にある。昭和62年に建設された。建設後20年を経過したところで、設備の老朽化が進んだことから、日野市は平成21年3月に「日野市ごみ処理施設建設計画」を策定し、平成31年度中に新しいごみ処理施設を単独で稼働する計画を立てた。

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そのような状況の中、平成24年4月、小金井市国分寺市から日野市の建て替え計画に合わせ、可燃ごみを一緒に処理させて欲しい旨の申し出があった。両市からの申し出を受け、日野市では財政面、環境面から単独処理を行うか、あるいは広域処理を行うかについて検討に入った。

折しも、この時期に日野市長選挙が行われ、平成25年4月に現職の大坪市長が誕生した。前任の馬場弘融市長のもとでは、日野市単独の小規模なごみ処理施設での検討が進んでいたので、方針が変わったということになる。ちょうど、市長の交替時期に重なっているため、大坪市長就任のタイミングでの方針変更にも見えるが、平成24年11月の市議会で方針変更が打ち出されているので、正しくは馬場市長の下での変更決定ということになる。
新ごみ処理施設は、当初計画では平成31年稼働開始で進んでいた。この建設計画と、途中から加わったごみ処理施設広域化の折り合いをつけることが、大坪新市長の政治課題となったわけである。そして、この件を性急に進めたことが、今回の問題の端緒となった。

 

2.問題の違法ごみ専用路

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今回の裁判で違法建設と認定された「ごみ専用路」は、北川原公園の敷地内にある。
そもそも、この北川原公園は、ごみ処理問題の環境保全を目的に造られたものであった。日野市石田周辺は、河川に挟まれて住宅が密集していないことから、ごみや下水の処理施設が集まりやすい地域であった。ごみ問題が日本全体の社会問題となっていた昭和50年代において、石田の人々は、ごみ処理による悪臭や環境悪化の問題に直面していたが、更に下水道の処理場建設案も浮上したことが加わり、近隣住民の被害感や不満感は相当に高まっていた。そこで、同じ市民の間に、加害・被害の格差を作ってはならないという、当時の森田喜美男市長の方針に基づいて、約9.6ヘクタールの敷地にテニスコート、野球場、広場を含む市内最大級の公園を建設する計画がこのときに出来上がった。つまり、この北川原公園には、市内の「迷惑施設」が集中する地元住民へのお詫びあるいは感謝のしるしとして造られた経緯がある。公園の整備に費やした費用は、のべ約18億円(うち国庫補助が約4億円)に及んでいる。

突如のごみ処理施設建設方針の変更は、少なからず地元住民の強い反発を招いた。にもかかわらず、日野市は、方針変更の発表からわずか4か月後の平成25年3月13日、地元住民や市民の反対の声を押し切る形で、小金井市国分寺市との間で、クリーンセンター建設の覚書を締結したのである(注:大坪市長の当選前)
小金井市国分寺市からのごみ収集車をクリーンセンターへ搬入するためには、北川原公園に接する石田大橋を経由しなければならない。しかし、石田大橋から入ってくるごみ収集車を、多摩川沿いの道路に通すためには、どうしても北川原公園予定地内に道路を通さなければならなかった。この道路の建設許可を取ることは、手続き上容易ではない。そこで、日野市は、当初、ごみ収集車が北川原公園内を通行するための道路を、「兼用工作物」として作ることを検討したのである。
「兼用工作物」とは、公園と道路とが双方の機能を果たすものをいう。この道路が兼用工作物と認められれば、道路ではなく公園としての管理が可能となるため、法律上日野市が運用できることになる。
しかし、平成27年3月に、東京都都市整備局・建設局に相談した結果、東京都は「この道路はもっぱら公園利用者のための園路とは言い難く、公園施設とすることは認められない」という見解を示した。兼用工作物としての建設は不可能となった。
 次に、9か月後の同年12月、日野市は、道路の法的位置づけを見直し、日野市立公園条例に準じて、園路でもなければ認定市道でもない、ごみ収集車だけが通行する「クリーンセンター専用路」を作るとし、それを「30年間の暫定利用と」すると解釈を打ち立てて、道路の建設を進めていったのであった。

3.問題とされた法律違反とは何だったのか

今回の裁判において、クリーンセンター専用路の建設は、いくつもの法律違反があることが指摘された。日野市は、日野市立公園条例に準じてクリーンセンター専用路を作るので、何ら法的問題はないと主張してきたのだが、それが認められることはなかった。

まず、そもそも日野市が主張する日野市立公園条例に違反していると判断されている。仮に、日野市が主張したとおり「条例に準じて」建設が可能であれば、その上位法にある都市公園法においても、同様に「準じて」建設が可能でなければなければならない。ところが、前述のとおり、この道路は、都市公園法が定めた「兼用工作物」には該当しない旨、東京都都市整備局・建設局が見解を出している。この時点で、都市計画法では認められておらず、日野市の条例に解釈を変えてみせたところで、小手先を攻める戦法であり、大筋で認められるわけがない。
次に、都市公園法に従って、このクリーンセンター専用路を建設する場合は、地下に作るか又は高架としなければそもそも認められないという。無許可で地上に道路を造った時点で、都市公園法にも違反していることになる。

さらに、公園の整備は、あらかじめ決められた都市計画に沿って進めなければならない。この道路の建設によって、公園の面積が減ってしまうことはあってはならず、もし道路の建設を優先する場合は、都市計画の変更手続きを取らねばならない。日野市は、クリーンセンター専用路を設けるための都市計画変更の手続を一切とろうとしなかったので、都市計画法に明らかに反していることになる。
そして、北川原公園用地にごみ収集車を通行させるクリーンセンター専用路を作ることは、公園予定地の用途を妨げるばかりか、公園の整備そのものが止まってしまうという事態を招くことは明らかであることなどから、地方自治法にも違反している。
最後に、北川原公園については、これまでに国と都から2億8400万円の補助金が投入されてきた。補助金事業は、申請した計画通りに事業が進まないと、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律にも違反するのである。

ことほどさように多くの違法性を指摘される事業を強行突破した結果、住民団体からの提訴を受けて、日野市は負け戦を戦う羽目に陥ったのである。

 

4.責任は誰にあるのか

なぜ、日野市は明らかに違法なクリーンセンター専用路を作る方針に立ち至ってしまったのだろうか。

(1)日野市長

誤った判断の最終責任者は、日野市長である。事実経緯を見る限りは、現職の大坪市長はもとより、最初に方針を転換した馬場前市長にも責任の一端があるように思う。ここで疑問に思うのが、なぜ大坪市長が違法性を認識しながら事業を進めてしまったのかという点である。
wikipediaによると、大坪市長は一橋大学を卒業後に、日野市役所職員としてキャリアを積んだエリート行政官である。豊富な行政経験があることから、違法性のある事業を安易に進める人とは考えられない。条例の解釈で逃げ切れると指南した者がいたのだろうか。あるいは、市長に当選して、強い政治的リーダーシップを発揮せねばと、余計な奮発でもしたのだろうか。そして、事業を急いで進めなければならない隠れた理由があったのだろうか。

大坪市長に課された2億5000万円の賠償金は、個人で払える額ではない。金銭を私的に着服した事件ではないため、日野市が巨額の賠償金を債権放棄するという判断は、必然の流れではあった。ただ、自らの給料を返上したものの、やはり責任の取り方は金銭ではなく、行政官としてのけじめとして進退で済ませてほしかった。おそらく、進退に話が及ばなかったのは、今年2月に選挙が行われたばかりであることや、後任に現状勢力をまとめうるだけの候補が見当たらないなどという理由ではないかと思われる。また、大坪氏は、仮に辞任をしても、年齢や自身の能力を踏まえれば、一度けじめをつけた後に、都議選や国会議員など別の舞台での再起を目指せるのではないかとも思えるだけに、まことに残念な身の処し方であった。

 

(2)日野市議会

日野市議会においても、東京都から違法性の高い事業であるという指摘がある点を認識しながら、建設計画に賛成していると思われる。よって、市長とともに責任を負うべき立場にある。また、市長の債権放棄を可決したということは、市長が負った責任を市が背負うことになる。司法判断をなきものとする行政の責任は極めて重いものだ。市議会が謝罪したという話を聞いたことがないが、この問題は最終責任者の市長だけが謝れば済む問題なのだろうか。市議会には、自らも責任を負う当事者であるという自覚があるのだろうかと首を傾げたくなるのである。
また、この問題を法廷に引っ張り出した共産党や原告住民団体の活躍は称賛に値するが、市長敗訴後の謝罪を受けて、和解に応じて、債権放棄に全会一致で賛成したことが、理解に苦しむのである。そもそも、訴訟を起こす意味があったのかと問題が原点回帰してしまうし、仮に採決で反対しても、賛成多数で債権放棄は可決されるのだから、自身の姿勢を貫徹してもよかったのではないか。和解にむけての何らかの政治的思惑があったのかもしれないが、外野の人間は何もうかがい知れず、ただ置いてきぼりとなるのである。

 

(3)国分寺市小金井市

そもそも、ごみ処理施設建設の方針を変えたのは、国分寺市小金井市との共同事業として進めることに、利点を感じたからである。複数の市町村が共同で使用する施設を建設する場合、広域連合という形態で事業を進めることが多いが、今回は何らかの理由があって、3市の共同事業という形で進んでいった。そして、道路建設の許可で日野市がつまづいてしまったわけである。日野市の手続きにミスがあったのだが、これは日野市単独の問題なのであろうか。日野市が違法性を認識しながら事業を進めたおかげで、国分寺市小金井市のごみ処理車両が多摩川を越えられるのであるから、日野市に対して何らかの配慮があってよいのではないか。当事者の市長や議員のもとには、さまざまな接触があるのだろうが、一般市民の視線からは冷たい無反応のように見受けられるのである。

5.おわりに

日野市は、敗訴を受けて違法性の解消につとめるとコメントした。違法性を解消するには、都市計画を変更して道路建設の認可を取るか、道路を空中もしくは地下に移設しなければならない。そのいずれも、現実的には行われなず、結局は30年間違法状態が放置のままになるのではないか。
前述のとおり、北川原公園は約18億円を投じた公共事業である。それだけの税金を投じてきた公園の利用が、道路によって妨げられるとしたら大きな損害である。人気の少ない公園の面積が多少減っても、生活には影響がないかもしれない。しかし、法律の運用に例外を作ると、後から後から例外の事例が沸いてくるものだ。債権放棄とネット検索すれば、日野市の事件が先頭に並んでいる。日野市がやっているのだから、うちの場合も債権放棄すれば大丈夫といった、安易な風潮にならないように願っている。