日野市多摩平8丁目のブログ

主に日野市多摩平およびその周辺の歴史や話題を語ります

50年前の日野市都市計画マスタープランを読んでみた

 

昭和42(1967)年に、有山崧(たかし)日野市長が出した日野市の都市計画マスタープランがあったので、今更ながら読んでみました。原稿用紙20枚近くの分量ですが、なかなかの文章ですので、時間があればご一読おすすめします。この記事の末尾に書き起こしてあります。

 

まず、全体的な印象として、戦後民主主義の影響を受けた住民目線の優しいメッセージであると思います。

一方、「質の悪い団地」の建設排除を繰り返し述べています。この文章を読んだ際、直感的に建築物よりも住民の問題を暗に批判しているように受け止めました。当時、有山市長は多摩平団地自治会の対応に苦慮していたころなので、暗に先鋭化した住民運動に対しては何らかの嫌悪感を抱いていた所以と思われるからです。その負の感情を表に出すまいとしながらも、行間に本心が滲み出てくる感じがしてならないのです。

 

また、過去の計画案ですから、当然のごとく予想が当たらなかった点が多々あります。市長は将来予想について、どちらかというと性悪説に寄った考えをしているようです。手放しで放っておくと世の中は悪くなるという考えが軸にあります。一方で、都市計画法建築基準法などの適用が厳格だったこともあり、完成後の道路や建物の不具合で世の中が騒ぐことは、あまりありませんでした。(そういえば、耐震不適合で世間を騒がせたマンションが日野市にもありますが、その後は大丈夫なのでしょうか?)

具体的に当たらなかったのは、主に以下の2点です。

 

まず、

人口は爆発的には増加しなかった

昭和52年に26万人に到達を予想しましたが、そこまでは増えませんでした。この予想外しは、何とも致し方ないところです。

 

一番のみどころは、

市民が土地取引において気をつけるべきは悪徳ブローカーではなく「副市長」だったことでした

まさか、有山市長も自分が新採で迎えた日野市職員が、今回のような不祥事を引き起こすなど、想像すらできないでしょうが…

 

以下、有山市長の計画文をそのまま掲載します(一部、筆者による修正あり)

 

(一)市は何故、基本的総合計画を作ろうとしているか

(1)人口増の波が押寄せてきている

近年、我国における経済の高度成長と産業の急速な近代化のため、人口の流動が激しくなり、それが国内の一部の都市に集中し、中でも東京都はもっとも激しい人口増の波を被っています。

しかし、その波は、区部ではもはや呑み切れないで、必然的に三多摩にあふれ、その波頭はだんだん都心より遠くに拡がってきています。

都心より35キロにある日野市は.いまやその人口増の波頭を真向からかぶろうとしています。この人口増の現象は、この10年来日野において、徐々に現われてきていたものでありまして、昭和33年から毎年平均5,000人余り、約12.3%の割合で増加、今年の初めには、10年前の2.54倍、約75,000人の人口となりました。

この人口増の傾向は、今後、年を追うにつれて激化するものと予想されます。緑の山は切崩され、豊かな農地は埋立てられて宅地と化し、推計によりますと、10年後の昭和52年には約20万になりその上、手放しにしておくと26万の人口になってしまいそうです。

そうなれば、住宅は無秩序に建てられ、狭い曲りくねった道路、溢れ汚染された用排水路、井戸と吸込み排水口との同居、その他ゴミ・し尿の処理、学校や保育施設の増設、交通マヒ、いろいろな公害などの問題に悩まされ、市の財政はその後を追っかけて、その場限りの一時しのぎをするために使われてしまって、近代都市として必要な施設を充実して行くことにまで手がまわらなくなって、おそらく手のつけられない雑然とした過密都市になってしまうでありましょう。

 

(2)放っておけば大変なことになる

人口増の波が去って、そこに洗い出された姿はどんなものであるかは、すでに都心に近い区や市において明らかであり、今になってそれを是正改造しようとすると、それこそ一大難事業であって、多大な労力と莫大な経費を必要とします。

日野市の場合も、人口増の波頭を受けつつある現在、拱手放置しておくと、都心に近い区や市のように雑然とした都市になってしまうでしょう。

土地屋と称するプローカーが、腐肉をあきるように土地を求めて暗躍して、無責任な宅地造成業者は後のことを考えずにやっつけ仕事をし、そのため泣かされる市民も数多く、無規制無秩序の宅地造成によって市内は雑乱状態となり、その後仕末のために、市は財政負担に喘えぐことになるでしょう。

「鉄は熱い間に打て」といわれますが、日野市は今こそ全市をあげて、人口増に対処する根本方針を立て、将来への計画的市造りに乗り出すべきではないでしょうか。

 

(3)防禦的規制をしても防ぎ切れない

地方の都市において、人口増対策として人口増を野放しにしておくのではなくて、たとえば、市の要求するこれこれの条件を呑んでそれを実行するのでなければ、市は団地をつくるのに協力しないというように市として規制を加えて、将来みすみす図るような事が発生することを予め防ごうとする防禦的規制の努力が、しばしば見受けられます。しかし、残念なことに、この努力は余り成功していません。それは現在、市という地方自治体には、団地造成を規制するに十分な法的権限が与えられていませんし、国や都の方針も徐々に規制する方向に向つてはいますが、まだ確立されていないからです。防禦の網は極めて脆いものであるといわざるを得ません、

苛刻な条件をつければ、団地は来なくなるでしょうが、よしんば大規模団地を防いだとしても、その隙間からもっと質の悪い小団地や不法建築の住宅がどんどん侵入して来てしまいます。このようにして人口増の怒涛の力は、一地方自治体の防禦的規制力をはるかに上回って強大であります。

また、土地は市のものでなくて市民の私有地ですので、市民の意志によって自由に売買することができますから、市が一方的にそれを規制することができません。

 

(4)防ぎ切れないなら呼込んだ方がよい

このようにして人口増の波は、防ごうとしても余り効果を期待できませんが、それだからといって放っておけば、なお大変なことになってしまいます。

そこで、どうしたらいいでしょうか!

私は市長になってから2年しかたたない未熟者ですが、今日にして適切な人口増対策をたてなければ、日野市は悔を千載に残すことになることを痛切に感じ、この千載ー遇の時に当って、市民の皆さんと打って一丸となって、人口増の波に立向い新しい日野市を計画的に建設して行こうと思い立ちました。

到底避け得られない波、防いでも隙間から侵入してきてしまう波なら、いっそのこと相手の力を利用して勝を制する、「柔道の極意」のように、積極的に波を呼び込んでしまったらどうでしょうか。

波が日野市に入ってきた時、日野には計画的に縦横に溝が堀られていて、それに従って、人口増の洪水は整然と計画的に日野全市に行き渡って行く。

かくして、日野市は質のよい緑の多い住居地域として造成され、人口も飽和状態になる前に計画的に押え、日常の買物も身近な所で間にあい、文化的で住みよい美しい近代都市になる。このようにして、人口増の波を積極的に呼入れるためには.日野市に基本的な総合計画(マスタープラン)、が用意されてなければなりません。これが今回、私たちが日野市で基本的総合計画をつくろうとする、根本の理由であります。

 

(二)基本的総合計画に基づいて、市は何をするのか

(1)土地区画整理

人口増を受入れるに当って、土地の区画整理事業を行なって、そこに呼入れるという方式があります。現に、当市においても多摩平をすでにやり、目下、平山台、四谷下、神明上の三地域において着手しています。これからも万願寺その他の地域を必要に応じて取り上げなければなりません。

ところが日野市の場合、10年後の昭和52年代は20万の人口となると推定されますので、この10年間が勝負のしどころといえましょう。この短日月の間に、一区域を区画整理するのに少なくとも5年を要する土地区画整理事業だけに頼って、人口増を受入れようとしたのでは、ある区域の整理ができてやれやれと思った時は、その周囲は無秩序な宅地造成で埋まっていることになりかねません。

そこで、市全体としてみて、重要で緊急を要すると思われる地域の土地区画整理はもちろん、どんどん実施しなければなりませんが、日野市におけける人口増のスピードと区画整理のスピードを比べて考えてみますと、区画整理だけに頼つてはいられませんので、それと併用して何か人口増の波を受入れるよい方法はないものでしょうか。

 

(2)大規模団地の誘致

ここにおいて考えたのが、質のよい大規模団地を積極的に呼入れるという方法であります。今のところ多くの市で、大規模団地はいやがられ、断わられている傾向にあります。それは大規模団地が出現すると、一度に一万人もの人が外からどっと入ってきて、市内の様子が大きく変化するし、学校その他の施設は団地側で一応作ってくれますが、結局、地元が建設費を返えさなければならず、元利合わせると年賦払いとはいえ高いものになってしまい、財政的シワ寄せになり、市の財政を圧迫することになるからでありましょう。

それで、もし日野市において、積極的に大規模団地を呼入れようとすると、団地は喜んで日野になだれ込んで来るかもしれまぜん。しかし、日野では基本的総合計画があって、その計画を忠実に守る団地しか入れません。

つまり「あなたの団地は日野市のこの部分に入るのです。そして、この部分は基本計画によって、こう道路をつけ、こう水道や下水道を設け、また学校、保育施設、集会所、公園などはこういうふうにつくるのです」と説明し、それをよく了解して、そのように実行する団地しか誘致しません。

このような団地はできるだけきてもらって、それによって、日野を部分的に造成して行きたいと思います。

今日まで団地造成関係者と話し合ったところによると、市側の積極的誘致政策に対して、団地側も積極的に市の注文に応ずる態度を示していますし、都、自治省建設省あたりでもこの市の政策に興味と賛意を表し、モデルケースとして積極的援助をしてくれそうであります。

 

(3)後門の狼-違反建築と小規模団地造成

このようにして、人口増の波の中にあって、新しい日野市を建設するために基本的総合計画を立て、それに基づいて土地区画整理をし、また質のよい大規模団地を計画的に誘致して、前向きに人口増を呼込んで来るとしても、それだけで立派な市造りができるとは期待できません。それは後門に狼がうようよいるからであります。後門の狼というのは、程度の低い小規模団地の乱造と違反建築の乱立のことであります。

これらが野放してどんどん侵入して来てしまうと、せっかく前向きに近代的な質のよい市をつくろうと努力しても、到底、日野市は私たちの願うような都市になることはできません。

そこで、なんとかしてこれら狼を退治する方法を立てなければなりません。違反建築の中には、現行の建築基準法そのものが適切でないことから違反が生ずる場合もあるようです。ですから、法律通りに形式的に取締まることも一考を要するものと思われますが、明らかに他人に迷惑をかけたり、後で問題を起すような不法建築がたくさんあります。

現在、建築確認事務(許可事務)は東京都知事が行なっています。しかし、ご承知の通り人手不足で建築申請に対して、現地確認というキメ細かい行政をすることができずに、書類審査をするに止っています。そこにつけ込んで違反建築が大手を振って横行しています。また不法建築、違反建築と認めても、それを制裁する決定的な法的手段に乏しいのが現状です。

元来、建築確認の事務は地元の市長がやるべきなのですが、いろいろ面倒なことがあるので、今日、都下のどこの市でもまだやっていません。それで知事が代ってやっている訳です。しかし、本当に前向きに日野市の計画的造成を考えるならば、市として不法建築を締め出すために、自分で建築確認事務を行なうべきであります。最近、行政管理庁が建設省に対し不法建築取締りの強化の勧告をしましたが、これはおそきに失するくらい当然の措置といえましょう。

 

(三)地主の皆さんヘ

(1)土地を手放すには慎重に

日野市が積極的に人口増の波に向かって、団地を呼入れるということになると、おそらく、たくさんの土地ブローカーが地主の皆さんのところへ行って、うまいこと、ありもしないことをいって、口車に乗せようとするでしよう。

どうか土地プローカーに気をつけて下さい。もちろん、土地屋の中には信頼できる人もいますから、そういう人をよく見分けて下さい。また、話が来たら一応、市の方に連絡をとって確かめることも被害を少なくする方法でありましょう。いずれにしても、先祖伝来の尊い土地、農地解放によって得た土地ですから、それを手放すにしても、皆さんの利益になるように、そして、郷土日野市の発展に役立つようにしたいものです。田の中に虫喰い穴があくように点々と家が連ち、し尿車も消防車も入れなくてよいでしょうか。

悪徳ブローカーに土地を売らず、違反と知りつつ建築するような不法業者を締出すなど、地主の皆さんの理解と協力をお願いします。これがこれからの新しい日野市建設のキメ手となるでしょう。

 

(2)市は計画を強行するのではない

(地主の意見と利益を尊重)

市が基本計画を立てて、それに基づいて市造りを実施して行くというと、その計画を頭から強行するものと誤解されやすい。皆さんの中には、市では一方的にここは農地として残したい、あそこには大団地を、道路にこういうようにすると決めても、“土地は俺たちのものだから、そう勝手にはさせない”というような気持でいる人もあるかもしれません。

しかし、それは明らかに誤解です。市としては、土地利用が一切の計画の根本になりますから、その点、地主の皆さんとの関係が一番大切であり、問題であると思っています。地主の皆さんを犠牲者にし被害者にしてはなりません。地主の皆さんの意志は十分尊重します。皆さんの農地をなくし、将来の生活の保障を危くするようなことは、すべきでないと考えております。

役人仕事ですと、とかく一方的に机上計画を立てて、それを上から判を押すように強行しようとし勝ちでありますが、これでは、市民は被害者になってしまいます。

日野市においては、市民による市政、市民の手による市造りを建前にしております。これは自治体として当り前のことですが、その建前からすれば、市民の納得しないことを強行するようなことは、もっとも避けなければなりません。

十分話し合った結果、始めは反対だったが、終わりには納得してその気になってもらうというようにお互いの根気と努力と理解とが新しい日野市をつくって行く原動力となるものであります。話し合い、説得しても、ついに承知してもらえない時は、計画の実行を変更するより仕方ありません。市としては、基本的総合計画を立てても、それをそのままむき出しの姿で実行しようとするような硬直した考えではおりません。複雑で変化して止まない現実の中において、それに順応しつつ、ねばり強く時には回り道をし、時には、姿を変えながら、最善の道を見出して行こうとしているのです。その時点の現実に合わせて修正しつつ実施し、実施の過程において修正して行く、というようにしたいと思っています。

 

(3)農業を続ける人には新しい農業のあり方を

土地は地主の皆さんのものです。日本では、土地の私有権は外国よりも強く保護されています。この問題が今後どのようになるかは国が決めるでしょうが、今のととろ、日野市においていくら基本的総合計画を立てて、土地利用の構想をもっても、地主の皆さんの同意を得られなければどうにもなりません。農家の方が農業を続けて行きたいというご希望なら、それでいいのです。農業を大いにやって下さい。

しかし、これからの農業のあり方は、これまでのままではいろいろの点で効率が悪く、生活を支える産業としては成立ちにくいでしょう。

そこで、近代近郊農業にどう変って行くか、用水路の汚染をどうするかなどが問題になります。市としては、農業委員会、農協、その他各種の農業団体と相談して、発展する日野市の将来の中で、農業はどうあるべきかを描き出そうとしていますし、それが基本的総合計画の一部をなします。

また、もはや多摩川や浅川から農業用水を取入れていたのでは、やっていけなくなるでしょう。ご承知の通り、用水路は今や排水路となって汚染され、しかも、流末に行くほど細くなっているので、水吐けが悪くなっています。それで、用水路は専ら排水路に切換えてしまい、これに代って、井戸を堀ってきれいな地下水を農業用水として、地区的に給水することが考えられます。そのために、農地は散在から集団化へということになり、新しい農業地域が市内で何ヵ所かできるでしょう。それは観光に結びつくこともあり、また美しい緑を市民に与える安息の地ともなります。

 

(4)皆さんの意見をどしどし寄せて下さい

(市民による市政を)

市がつくろうとしている基本的総合計画は、計画を立てることが目的ではなくて、その計画によって住みよい日野市を建設することが目的なのですから、計画の実行、実現を重視します。

そうなると、計画そのものの立案も、その実施も、市民である皆さんの理解と協力による参加なくしては、到底行なわれません。市役所で一応事務案をつくります。しかし、これは市民の皆さんの議論の叩き台に供するものでありまして、事務案についてどんどん意見を出して頂き、それによって手直しし修正して行きたいと思っています。

特にこの際、地主の皆さんにお願いしたいのは、これからの計画的な日野市建設のために一番問題なのは土地であり、その点皆さんとの関係が一番深く大切でありますので、市の事務案に対して、疑問に思う点、不安な点、図る点、反対な点など、どしどし述べて頂きたいということです。

皆さんの中には、今、農地を売って金に換えるよりは、子孫のために農地という形でなくてもともかく土地として残しておきたいと考えている人、農業は俺の代だけはどうしてもやる、倅の代になればやらないだろうが土地を残しておいてやりたいと思っている人がいることでしょう。このような皆さんの気持は、土地問題を考える時、十分尊重されなければなりませんし、それに合った対策を立てなければなりません。また、前に質のよい大規模団地を呼んで来るともいいましたが、これまでのように何十万坪といったような広い土地がまとまることは、もはや今の日野の現状からいって、なかなかむずかしくなっています。こうした中で、どのようにして質のよい団地を呼んでくるか、そこに新しい方法が打出さなければならないでしょうし、そのために皆さんの貴重な意見が必要となってきます。

このようにして、皆さんの出された意見に対して、それをどう解決し、対処して行くかということを研究することによって、基本的総合計画の実行は手直しをされ、より適切なものになって行くでしょう。そして、これによって市造りを推進して行けば、きっと住みよい日野市が建設されると確信しています。

どうか皆さんの考えにより立案し、皆さんの手により実施して行くのだという前向きの姿勢で、基本計画を受け止めて活発な意見を寄せて頂きたいものです。

私たちは日野市の基本的総合計画が、単なる机上の計画でもなく、描かれた絵でもなく、人口増の波の中で将来の日野市を考えて、なんとかしなければならないという市政の拠り所となるべきものと思っています。と同時に、それは前途にたくさんの困難さをもっているものであることも承知しています。

皆さんの意見と協力によって、その一つ一つを解決しながら、住みよい美しい日野市を建設して行くことが、現在この日野に生を受けている私たちの、子孫に対する重大な責任であると信じます。